研究内容
船舶からの
水中放射音と
海洋生態系
Underwater Radiated Noise from Ships and Marine Ecosystems
人類の活動に起因する水中放射音の海洋生態系に対する影響への懸念が、環境保護団体を中心に広がっています。国際海事機関(IMO)では、船舶の水中放射音の周波数がクジラの鳴音の周波数に近いことから、一般商船の水中放射音に関して議論が始められようとしており、国際物流を支える海運と海洋生態系保全の両立が大きな課題となっています。
本研究室では科学的観点より上記課題の解決策を探るべく、対象船舶からの水中放射音の現地計測や海棲哺乳類への影響調査に関係機関と共同して取り組んできました。

過去の調査研究時に撮影した、小笠原近海でのザトウクジラ
船舶からの水中放射音の現地計測
一般商船の水中放射音の船種や船速,建造年による差を知るために,2020年11月〜2021年1月に伊豆大島沖の水深約330mの地点にハイドロフォンを3基設置し2ヶ月間水中音を記録しました.
(船舶水中騒音対策の検討に関する調査研究、日本船舶技術研究協会2020年~)

伊豆大島沖でのハイドロフォン設置作業
上記計測では250隻を超える外航船の水中音を記録することができました.下図は,ハイドロフォンの近くを船舶が航行した際の音のレベルの時間変化を表します.縦方向は周波数を表し,画像下部ほど周波数が低く上部ほど周波数が高くなります.横方向は時間を表し,右方向を正としています.画像の左右の中心付近の色が明るいのは,船舶がハイドロフォンに最も近づいていることを示します.今回の計測では,低周波数の音が海面付近で比較的遠くまで伝搬する様子が確認されました.

ハイドロフォン近傍を船舶が航行した際のスペクトログラム
音響伝搬計算に基づく船舶の音源レベルの推定や水中放射音の低減法
水中音伝搬の推定法として,単純なエネルギーの拡散に基づく方法と,波動方程式に基づく方法が挙げられます.前者の例として,球面状のエネルギー拡散に基づく伝搬損失$TL$は,音源からの距離$r$を用いて,
\begin{equation} TL = 20 \log r \quad[\text {dB}] \end{equation}
と表されます.これは音源から近い範囲ではよい推定を与えるため,船舶水中音の音源レベルの推定にも用いられます.後者の例としてノーマルモード法を用いた水中音の伝搬損失の推定結果を下図に示します.縦方向は水深を,横方向は水平距離を表し,音源は船舶を想定し画像左上にあります.この方法では音波の伝搬の波動性を考慮できるため,水面や海底での反射,水中での音速の変化に伴う屈折が推定されています.

ノーマルモード法を用いた計測海域における水中音伝搬の推定