研究内容

非線形現象

Non-linear phenomena

本研究室では、非線形現象に関するいくつもの研究を実施しています。

規則波中の不思議な現象

Duke大学・徳島大学・東京工科大学との共同研究

船舶の運動は非線形であり、学部2回生の授業でも習いそうな、本当に単純な形の方程式からも不思議な結果が得られることがあります。以下の図は、船の運動方程式を解いて、転覆と非転覆を判定した結果ですが、不思議な模様が出てきます。これは、フラクタルとして知られています。

この動画で出てくるバナナのような浸食の形は、ちょっと難しい言い方をすると、左右のサドル型不安定平衡点の安定多様体の形と一致している、ということになります。

こんなフラクタルをはじめとして、分岐、カオス、対称性の破れ、などといった複雑な現象ですが、実はたった

\begin{equation} \begin{array}{l} \ddot{\phi}+\kappa \dot{\phi}+\phi-\phi^{3}=B \cos \omega t \\ \omega=0.905 \text { and } \kappa=0.04455 \\ \end{array} \end{equation}

という方程式で味わうことができます。この形を計算するためのPythonとJuliaのコードを示しておきます。

Python

Julia

バナナのような形が出始める瞬間はメルニコフという研究者が考えた理論計算法で概算でき、

\begin{equation} B_{M}=\frac{2 \kappa}{3 \pi \omega} \sinh \left(\frac{\pi \omega}{\sqrt{2}}\right) \end{equation}

となります。$k=0.04455$、$\omega=0.905$のとき$B\,(=B_{M})=0.0383$ですが、先ほどの動画の上に$B$のカウンターがありますので、この値付近で止めると、まさにバナナの形の出現開始の条件に近いことが分かります。理論って面白いですね。

例えば、小さな波の時には1つの周期解であったものが、波の増大につれ3つの周期解に分かれ、その後安定解と不安定解が対消滅するSaddle-Node分岐もこの方程式から容易に観察できます。

不規則波中の転覆

Hamburg工科大学 Dr. Leo Dostalとの共同研究

でも実際の波は不規則です。そうすると、規則波に対するアプローチや考え方は使えるのでしょうか?答えはYESです。ここ最近の研究で、ほんの少し考え方を発展させるだけで、船の運動の確率的な振る舞いを予測することができるようになりました。ここで用いるのは、学部では習わないかもしれませんが確率過程、特に確率微分方程式というものです。いま船の運動における$\mathcal{H}$というある量についての1次元の確率微分方程式は

\begin{equation} \mathrm{d} \mathcal{H}(t)=m(t, \mathcal{H}) \mathrm{d} t+\sigma(t, \mathcal{H}) \mathrm{d} W(t) \end{equation}

となります。あまり学部の授業では見かけない微分記号の表記になっていますね。これは伊藤の確率微分方程式と言われています。この方程式に対応した定常状態のFPK(Fokker-Planck-Kolmogorov)方程式と呼ばれるものは下のものです。$\mathcal{P}(\mathcal{H})$は求めたい確率密度関数を表しています。

\begin{equation} m(\mathcal{H}) \frac{\partial \mathcal{P}(\mathcal{H})}{\partial \mathcal{H}}+\frac{1}{2} \sigma^{2}(\mathcal{H}) \frac{\partial p^{2}(\mathcal{H})}{\partial \mathcal{H}^{2}}=0 \end{equation}

これは$\mathcal{P}(\mathcal{H})$について簡単に解くことができて、答えは定数$C$を用いて

\begin{equation} \mathcal{P}(\mathcal{H})=\frac{C}{\sigma^{2}(\mathcal{H})} \exp \left(2 \int^{\mathcal{H}} \frac{m(\mathcal{H})}{\sigma^{2}(\mathcal{H})} \mathrm{d} \mathcal{H}\right) \end{equation}

となります。これと同じ流れで船の不規則波中の問題を解いて得られた船の運動の確率密度関数は下の図のようになります。左は数値計算、右は理論計算です。よく一致していますね。理論ってすごいって思いませんか?

ホタルの明滅には同期現象という非線形現象が関わっているそうです。ゲンジボタルが実際そのような同期をしているかまでは造船屋の我々には詳しくは分かりませんが、今後の研究の参考とすべく、兵庫県で星と一緒に動画を撮影してみました。同期をしているようにも見えますね。人工衛星も見えます。運が良ければ流れ星も見えるかも?