研究プロジェクトProject

船体構造デジタルツインDigital Twin for Ship Structures (DTSS)

日本の造船・海事産業

船舶による貨物輸送は、世界経済の大動脈です。特に、周囲を海に囲まれた日本にとって、海運はまさに生命線です。日本の貿易量は、輸出入を合わせて年間9億トン以上ですが、その99%以上を海上輸送が担っており、これは世界の貿易量の約1/6に当たります。このように我が国海事産業の世界経済における役割は大きく、日本は世界でも有数の造船・海運国で、様々な船舶が建造され、世界の海上輸送を担っています。

不確実性が高く、時に厳しい気象・海象条件になる海域において、安全かつ効率的に船舶を運航するためには、船舶自身の状態を常に把握しておくことが大切です。そのためには、IoT・ビッグデータ・AIなどのデジタル技術を積極的に活用する必要があります。そこで,DTSS (Digital Twin for Ship Structures) プロジェクトでは、船舶の安全性をより高めるために、「船体構造デジタルツイン(2018年度~2021年度)」の研究開発を進めてきました。

デジタルツインとは

「デジタルツイン」とは、実世界のものを、そっくりそのままコンピューター上に再現するという考え方ですが、単なるシミュレーションではなく、実世界の情報も取り込んだ高度なサイバー・フィジカル・システムです。したがって,船体構造デジタルツインでは、遭遇する波の情報(波高や波向きなど)や、センサーによって計測されるモニタリング情報(ひずみや加速度など)を高精度のシミュレーションに融合させ(データ同化)、構造の健全性を評価します。

研究内容

船体構造デジタルツインでは、基盤技術として(1)モニタリング技術、(2)シミュレーション技術、(3)評価・推論技術の検討が行われました。これにより、「データ同化」技術を用いて、限られた計測データから船体のあらゆる部材の構造応答をモニタリングできる技術が開発され、実船や水槽模型で計測されたデータを基に検証が行われました。

大阪大学では、日本の海事クラスターを構成する大学・研究所・企業と協力して、藤久保委員長を旗頭に船体構造デジタルツインの研究開発に取り組んできました。本学から大沢委員・飯島委員・箕浦委員・辰巳委員・武内委員が本プロジェクトに参加し、基盤技術の精度検証に必要な弾性模型船の開発、カルマンフィルタ法やベイズ推論に基づくデータ同化技術の開発等に貢献しました。これにより,近い未来で船が経験する力を予測し操縦者にアラートで危険を知らせたり,長期的に船が受けた損傷度合を高精度に推定することが可能になりました.

このようにサイバー世界に再現される船舶を、海上の操船者や陸上の管理者、その船の設計者が共有し、統計的推論などを用いて、本船の健全性を客観的に評価できるシステムを提供することで、海上輸送の安全性向上を実現することができます。

期待される効果

船体構造デジタルツインにより、船体の状態がサイバー空間に精度良く再現されれば、陸上からも船舶の状態を監視することができ、遠隔操縦や自動運航の可能性が広がります。また、これから遭遇する海の条件での船舶の状態を的確に予測することで、より安全な航路や操船を選択できます。さらに、デジタルツインでより正確に把握される現実の荷重に基づいて船舶を設計、管理すれば、省エネルギー化、温室効果ガス(GHG)の削減、長寿命化等、様々な要求に応えることができます。船体の状態に関するリアルタイムのデジタル情報を基に、高度なデータ分析技術によって、船舶の安全性と効率性を向上させること、それが船体構造デジタルツインの目指すものです。

船体構造デジタルツインプロモーション動画