研究紹介

強非線形流れのための高精度粒子法の開発

水波の波長に対して波高が十分小さい場合、線形ポテンシャル理論によって水波の挙動はかなり正確に評価することができます。一方で、水しぶきを上げるような強非線形問題では解析的に問題を解くことはとても難しいです。

そこで活躍するのがCFD(computational fluid dynamics)と呼ばれる、流体の支配方程式であるナビエ・ストークス方程式を離散化して数値的に(パソコンの力を借りて)解く方法です。特に当研究室は線形ポテンシャル理論に精通していることから、ポテンシャル流とは対極に位置するしぶきを伴う流体現象の再現に適した粒子法に着目し、その高精度化を行っています。

粒子法は流体を粒子の集まりとみなして、一つ一つの粒子の挙動を計算する計算手法です。水しぶきなどを“それらしく”再現できることから、解析分野だけでなく、コンピュータグラフィクス分野でもよく用いられています。次の動画は水柱崩壊というダムが壊れたときの流体の挙動を再現するための数値実験です(スロー再生。またコンターは圧力場です)。

数値計算によって、ダム崩壊によって水が流れ出る様子や、壁に当たって水がまきあがる様子、水しぶきなどを“それらしく”再現できていることが分かります。

しかしながら、粒子法は流体の挙動を”それらしく”シミュレーションできる反面、圧力場を定量的に精度よく計算することは、あまり得意ではありません。粒子の位置がわずかに違うだけで圧力の計算に大きく影響を与え、時系列でみたときに不自然な振動(擾乱)を生じたり、また設定した数値計算条件(粒子径や時間刻み幅)によっても結果が大きく変わったりしてしまいます。

この実験はLobovský et al. (2014)らによって実際に水槽実験が行われていて、右壁に取り付けた圧力センサによる圧力の結果が与えられています。下図はその圧力の時系列といくつかの手法による数値計算結果との比較です(横軸が時間、縦軸が圧力の無次元値です)。当研究室では(c)RF-SDSという新しい計算手法を提案しています。その他の手法では、時間刻み幅dtが0.0004秒ではきれいな圧力時系列を得られる一方、それより時間刻み幅を小さくすると、圧力の振動が生じてしまいます。しかし本研究室で提案した手法では、時間刻み幅に依らず、同程度の精度で圧力を計算することができます。そのため、時間刻み幅をチューニングすることなく、高精度に流体挙動をシミュレーションすることができます。

このように当研究室では強非線形の自由表面流れのためのCFD(特に粒子法)の高精度化を研究しています。

参考文献:Iida, T., & Yokoyama, Y. (2022). Convergence-improved source term of pressure Poisson equation for moving particle semi-implicit. Applied Ocean Research, 124, 103189.

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