研究紹介

海の波に対する透明マントの開発

船舶や洋上風力発電などの海洋構造物は海の波に絶えずさらされています。この波から力を受けて、動揺したり、漂流したりします。そのため通常はどのような海象で運用するかを考えて、その海象で安全に運用できるような設計が行われます。

しかしもし波のない空間を創ることができたら海洋構造物をより安全に運用できるのではないか、そう考えて始めたのが、海の波に対する透明マントの研究です。ハリー・ポッターやドラえもん、攻殻機動隊などのファンタジーでおなじみの透明マント。これらは対象物を見えなくするという光の波(電磁波)に対する技術ですが、これを海の波に応用できないかと考えました。

いま、簡単のために海底から海上まで突き出た円柱(例えばモノパイル型の着床式洋上風力発電のようなもの)を考えます。通常、このような円柱が海上にあると、次の動画のように、波は円柱により乱されます。波が乱されると、その作用反作用によって円柱は漂流力(流される力)を受けます。

ここで下図のように、この円柱をぐるっと取り囲む、薄い膜のような構造物を考えます。この膜は周径方向が層になっており、それぞれの層は異なる物性を持つようになっています。この薄い膜の物性を、透明マントとしての機能を持つように設計します。

その結果が次の動画です。円柱周辺の薄膜により円柱によって乱される波がキャンセルされ、薄膜より外側ではまったく波が乱されていないのが分かります。そのため、薄膜より外側で波を計測すると、円柱があるにも関わらず、円柱が存在しないときと同じ波形になります。あたかも円柱が存在しないかのように波はふるまうわけです。このとき、円柱は波を乱していないため、円柱に働く漂流力はゼロになります。

このように当研究室では、一風変わった、面白い研究にまじめに取り組んでいます。なおこの研究はカリフォルニア大学バークレー校との共同研究で行いました。

参考文献:Iida, T., Zareei, A., & Alam, M. R. (2023). Water wave cloaking using a floating composite plate. Journal of Fluid Mechanics, 954, A4.

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