派遣研究者 - レポート
第33回 OMAE 国際会議参加報告 笹 健児
 2014年6月8日~12日にかけて、米国・San Francisco にて The 33rd International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering (OMAE2014) が開催され、実行委員長は耐航性理論にても著名な研究実績を有する Prof. Ronald Yeungであった。オープニングセッションにて、今回は論文数が約970編と過去最高を記録したことが紹介され、現在滞在中の NTNU からも教授、研究員、Ph.D. Candidate から多くの参加者が見られた。筆者は荒天航海時の船舶運航に関するウェザールーティングの高度化という側面からモデルの高度化、実海域データの蓄積、気象海象モデルによる予報精度の高度化という問題に取り組んでいる。今回はメソ気象モデルによる低気圧発達時の波浪予報に関する数値的な検証事例について講演した。OMAE では、海洋再生エネルギー、CFD、さらに流体力学、構造力学、これらの非線形な連成問題など頭脳循環プログラムにて各研究者が取り組んでいるテーマに関連した多くの研究成果が報告された。船舶運航で必要とされる理論の高度化はスラミングなど流力弾性問題、スロッシングなど取り組むべきテーマは多いが、これらを進めつつ実海域データも活用した方向性で研究を進展させ、Offshore Technology において貴重な成果報告を今後も継続して行いたいと改めて感じた。
 3日目の Banquet は San Francisco Bay の遊覧船にて行われ、海から見る風光明媚な San Francisco の街を眺めつつ参加者らは多いに満喫しながら交流を深めていたようであった。2017年には滞在先である Trondheim で開催されることが決まっており、どのような会議となるのか今から多いに期待される。  (2014年6月)


(左)Opening Sessionの様子 (右)Banquetにて遊覧船から見たSan Franciscoの街
ECM 訪問報告 飯島一博
 頭脳循環プログラムによる ECN の滞在を利用して、2013年9月16日-17日の期間に同じフランス国内のマルセイユにある ECM(Ecole Centrale de Marseille)を訪問して施設見学をさせて頂いた。この施設見学には頭脳循環プロジェクト派遣研究者である飯島と橋本の両名が参加した。先方のコンタクトパーソンは ECMの Prof Bernard Molinである。
 初日はマルセイユ大学の irpheと称される実験施設の風水胴を見学した。この施設は浮体式洋上風車の挙動解析のような工学上の目的以上に、例えば非線形波浪の不安定効果や海面での熱交換のメカニズムを調べるといった理学的な見地からの共同利用も行われている。吹奏距離を 15m以上と長く取れることが特徴で、自然風に近い状態を再現できる。次に、BGO First と呼ばれる商業水槽に連れて行っていただいた。波、風、潮流を起こすことができる海洋水槽を見学した。特筆すべきは商業水槽を謳いながら、地方政府からの補助金を基に、ECM は無償で水槽を利用できることである。これにより大学はある程度自由に実験を行うとともに、学生インターンシップが行われてきたとのことであった。
 二日目は Dr Olivier Kimmoun 氏の案内で ECM の施設を見学させてもらった。ひとつは、小型の二次元水槽であり、がけ崩れによってどのような波が発生するか?の再現調査を行っているところであった。また、別の大型の二次元水槽では衝撃圧の実験が行われているところを見学した。さらにスロッシング実験用の小型タンクと Hexapod(ECN や IFREMER にも同じものがある)と呼ばれる6自由度加振器を見せていただいた。
 午後には依頼により、“Floating Offshore Wind Turbine Projects in Japan” の表題で訪問講義を行った。聴講学生は ECM の9月入学の船舶海洋特別コースの様々なバックグラウンドを持つ修士レベルの新入生であったので、風力発電とは?なぜ風力発電か?などの基礎事項を織り交ぜて、日本の再生可能エネルギープロジェクトの紹介を行った。 Molin 先生を始め、Dr O. Kimmoun、Dr F. Remy 諸氏には大変お世話になった。ここにお礼申し上げる。  (2014年6月)


(左)ECM での飯島の講義風景 (右)ECM の Bernard Molin 教授
IFREMER 訪問報告 飯島一博
 頭脳循環プログラムの活動に、研究ネットワークを広げることが含まれている。ECN の滞在を利用して、2013年の9月2日に同じフランス国内のブレストにある IFREMER(フランス 国立海洋開発研究所)を訪問して施設見学をさせていただいた。先方のコンタクトパーソンは同研究所の Marc Boulluec 氏である。IFREMER はフランスにおける海洋再生可能エネルギー開発の一翼を担っており、洋上風力発電に関する意見交換もまた目的である。
 IFREMER の試験水槽の長さは 50m程度であるが、水深が 10mもあり、音響機器をはじめとしライザーやコアラ―など海洋掘削関連機器の実験に用いられている。造波機(プランジャー型、二基)が取りつけられたのは90年代とむしろ新しい。風荷重発生用のブロワ(4 x 3列)を取り付けると、風力や波力をはじめとする再生可能エネルギー機器の実験に用いることができる。また、強度関連の実験施設では、再生可能エネルギーの係留装置の一部としての利用が期待される合成繊維索に関する実験、圧力容器の実験、材料腐食に対する長期信頼性検討のための実験場を見学した。
 昼食を挟んで午後は、再生可能エネルギーについての情報交換を行った。飯島から国内の福島ウィンドファームプロジェクトと五島沖の浮体式風力発電プロジェクトについての情報を提供するとともに、大阪大学他全4大学で行った洋上風力発電施設に関する実験についての報告を行った。Boulluec 氏からは同所で水槽実験を行った、浮体式洋上風力発電 Windflo のプロジェクトに関する講演を頂いた。
 施設見学にとどまらず、Boulluec 氏ならびに同研究所に長期滞在されていた JAMSTEC の池田道則氏には週末を利用して海難事故として著名な Amoco Cadiz 号が座礁した沿岸域とその記念碑の見学にも連れて行って頂いた。ここにお礼申し上げる。  (2014年6月)


(左)Boulluec氏と水槽の前で (右)座礁後引き上げられた Amoco Cadiz 号のアンカー
NTNU 滞在報告 笹 健児
 2014 年 2 月 5 日に NTNU に渡航してから約1ヶ月が過ぎようとしているが、こちらでの研究の方向性も固まってきたので現状を報告させて頂きたい。私は AMOS (Centre of Autonomous Marine Operations and Systems) という海洋にて船舶や構造物などの運用およびシステム開発を研究する部署にて、Prof. Odd M. Faltinsen の指導を受けている。Prof. Faltinsen は言うまでもなく海洋工学の分野で世界トップレベルの研究者であり、多くの著書や世界中から集まる優秀な人材も多数育成されている。このような環境で研究を行う機会を得たことに深く感謝しなければならない。私は神戸大学に着任以来、国際航海中における荒天時の船体運動、抵抗増加、非線形現象を理論的に再現でき、これらの多くを経験則に依存している現状のウェザールーティングのモデル高度化を目指している。NTNU では荒天航海中の船舶性能を高精度に再現するため、前進速度を有する三次元モデルとしてランキンパネル法の高次パネル処理に取り組むほか、荒天航海時に発生する船体運動、抵抗増加に伴う機関出力および船速の低下、燃料消費の変動など機関関係の諸現象とも理論的にリンクしたモデルの開発を目標に Prof. Faltinsen および共同研究者の研究成果を参考に取り組んでいる。さらにスラミング、海水打ち込みなどの強非線形現象も荒天航海の安全性評価には欠くことのできない要素であり、これらをどのように取り込んで行くかについても考えて行きたい。研究内容に深く関連した Ph.D および Master コースの講義(“Hydro 1”および“High Speed”)も参加させてもらっているが、講義内容のレベルは非常に高く、NTNU の優れた環境を活用しながら残りの期間を充実したものとして行きたい。一方、NTNU は若い世代に向けた海洋工学の啓蒙活動も熱心に行っており、非常に詳しい入門書も出版している。さらに数百人の地元高校生を招き、隣接する MARINTEK の水理実験の設備で大掛かりなデモを見る機会があり、海洋国家として世界をリードするための人材育成に対する熱心さも多いに参考となった。 (2014年3月)


NTNU が実施した地元高校生向けのイベントの様子
NTNU 滞在報告 千賀英敬
 ノルウェー・トロンハイムにある NTNU に滞在し、2ヶ月ほど経過した。私は流体-構造の連成問題である、長大弾性管の渦励振 (VIV; Vortex Induced Vibration) の推定及び軽減を研究テーマとしている。NTNU における受け入れ担当者は、この分野で数多くの実験を行い、また渦励振推定プログラム (VIVANA) の開発者でもある Prof. Carl Martin Larsen である。滞在期間中、NTNU の曳航水槽にて付加物等を取り付けた剛体円柱模型の強制動揺実験等を行うため、現在 Prof. Larsen やスタッフとその調整中である(実験は5月末と秋頃の2回、それぞれ3週間程度行を予定)。強制動揺実験で用いられる運動軌跡は、単純な正弦波や周軌道など、対称な軌跡が一般的であるが、こちらでは Norwegian Deepwater Program; NDP の High Mode VIV Tests で得られた、弾性管模型(長さ約 40m ) の運動軌跡を使う。それらの軌跡が Inline、Transverse 方向に関して対称となることは稀であり、軌跡の変化は管に働く流体力に大きく影響する。また、今回の実験にて計測する円柱模型に働く流体力は、別途開発中の3次元離散渦法を用いた数値計算手法との比較も行う。
 私は Visiting Professor や Visiting Researcher 用の4人程度が在室できる部屋を使わせてもらっている。Ph. D の defence のために、1週間程度同室する研究者がこれまでに3人いた。研究テーマはそれぞれ異なっていたが、集中して最後のプレゼン資料を作る姿には良い刺激を受けた。今月から来月まで、Marine Dynamics の講義を受講する。 現在、Prof. Larsen の研究室には Ph. D candidate の Mats Jørgen Thorsen がいる。彼の研究テーマは VIV の時間領域解析である。彼の1本目の論文が査読中で、査読が終了したら送付してもらう。彼はとても親切なので、自宅にノルウェー語で書かれた書類が届いた時には、彼の部屋を訪ねて色々と教えてもらっている。 (2014年3月)


Ph. D candidate の Mats Jørgen Thorsen と
ECN 滞在報告 飯島一博
 4月の渡仏以来、早くも3か月が経過した。滞在先はECN (Ecole Centrale de Nantes; 国立中央理工科学校ナント校)の LHEEA (Laboratoire de Recehrche en Hydrodynamique, Energetique et Environnment Atmospherique; 流体,エネルギーと地球環境研究所)である。Ecole Centrale はいわずと知れた実学を志向したフランスエリートの養成校であり、その中の LHEEA には機械流体分野のスペシャリストが集まっている。現在、同研究所の Dr. Pierre-Emmanuel Guillerm 氏とともに、流体と構造の強非線形問題に関連して、主に洋上風車の水槽実験の計画とその模型設計を進めている。同時に、私にとってこの滞在は流体分野の知識を再構成するためのいい機会でもあるので、並行して粒子法など最先端の流体挙動評価法を学ばせてもらっている。LHEEA には他研究機関からの訪問も多く(まさに循環している)、先日はイタリアの INSEAN (The Italian Ship Basin) の一行の訪問があった。INSEAN の粒子法研究者による最先端の強非線形流体・構造連成問題についての講義を聴講し、刺激を受けた。
 受ける刺激は研究だけではない。昼時は研究所の博士課程学生やポストドクを含む研究者同士で賑やかにテーブルを囲む。そこでは他愛のない会話に始まり、教育やフランスの教育システムの話、研究指導についての悩みなど多種雑多な話題が飛び出す。若手研究者あるいは若手教育者同士、同じような悩みに共感を覚えることも多い。かくして貴重な時間を過ごさせていただいている。  (2013年7月)


昼食後のエスプレッソ
NTNU 滞在報告 生島一樹
 2月下旬よりノルウェー、トロンハイムのNTNUにあるCentre for Ships and Ocean Structures (CeSOS)での滞在を開始し、約3か月が経過した。滞在期間中の研究テーマに関して、NTNUでの受け入れ担当者であるProf. Torgeir Moanとの議論を通して、これまで溶接変形、残留応力の解析のために開発されてきた理想化陽解法FEMを、船体構造の強非線形流体・構造連成問題に適用するため、重合メッシュ法やマルチグリッド法の導入に関して共同で研究することとなった。現在は、溶接変形、残留応力解析におけるモデリングの高度化を目的として、重合メッシュ法の理想化陽解法FEMに対する導入に関して研究を進めているところである。
 また、5月27日から29日にかけて、設立から10周年が経過したCeSOSのこれまでの研究成果を紹介する国際会議が、CeSOSが設置されているMarine Technology Centreで催された。会議では、最初にCeSOSは10年間で50名以上のPh.D.を輩出し、海事産業の人材供給に貢献しており、多くの成果を残していることが紹介された。各セッションでは、構造信頼性、流体力学、制御などCeSOSの各研究部門の多岐にわたる研究の成果が報告された。会議の最後に、CeSOSの次にノルウェー政府の支援を受けて設置されるAMOS(Centre for Autonomous Marine Operations and Systems)の概要に関する説明が行われた。AMOSでは流体力学、海洋構造工学、制御工学を基礎に、船体構造や海洋構造物の安全性、海上及び海中における自動制御などの研究を分野横断的に進めることが説明された。また、会議を通して、NTNUのPh.D. candidateであるMauro Candeloro、Daniel de Almeida Fernandes両氏をはじめ、多くの研究者と交流を持つことができた。  (2013年6月)


Conference on CeSOS Highlights and AMOS Visionsにて
ECN 滞在レポート 橋本博公
 3月13日に日本を発ち、予定より1日遅れの14日にフランス・ナントに到着した。派遣先であるECNの受け入れ責任者はLHEEAのProf. Pierre Ferrantであるが、実質的な共同研究パートナーは粒子法研究で世界最先端を行くProf. David le Touzéである。Davidとの打ち合わせにより、滞在期間中は①大規模粒子法の計算環境構築と精度検証、②粒子法と有限要素法の組み合わせによる流体‐構造連成解法の構築、③MPS法とSPHの相互比較をテーマに共同研究を進めることになった。4月末現在まで、ポスドク研究員のDr. Nicolas Grenierらと協力しながら、②と③のテーマについて、少しずつではあるが研究を進めているところである。Davidの研究グループDyRaC(Fast dynamics flows and multiphysics coupling)はEUプロジェクトや企業からの出資をもとに、ポスドク研究員や博士課程の学生が多数在籍しており、人的な研究資源が充実している様子が伺える。ECNでは独自に開発してきたSPHコードをもとに、学外にHydrOceanというソフトウェア会社を立ち上げており、SPH-flowという名で商品化されている。ECNで最新アルゴリズムの研究開発を行い、HydrOceanがソフトウェアへの組み込みや拡充を行っているようである。このように、大学が行うべき研究とソフトウェア化の作業を分業していることが、粒子法研究でECNが世界最先端を行く要因のひとつとなっている。また、Dr. Pierre-Emmanuel Guillermとは船舶の波浪中操縦運動予測に関して議論を交わす仲となった。  (2013年5月)


DavidとECNの角水槽前で。
大阪大学 地球総合工学専攻 船舶海洋工学大阪府立大学 航空宇宙海洋系専攻 海洋システム工学神戸大学 大学院海事科学研究科NTNU-Trondheim Norwegian University of Science and TechnologyECN Ecole Centrale de Nantes