浮体式の超大型海洋構造物が、新しい空港、各種の工場・貯蔵施設、あるいは居住空間などの目的で考えられている。このような超大型の浮体式構造物を実現させるためには、その安全性を正しく評価するための信頼性の高い計算法を確立しておくことが不可欠である。現在構想されている海上空港は、長さ 5,000m、幅 1,000m程度の平面寸法に対し、喫水は数m程度と非常に浅い。従って波浪中での挙動を計算する際には次のような問題点がある。

  1. 考慮すべき波の波長(λ)は構造物の長さ()に比べて非常に短い。例えば λ=50〜100m の現実的な波を考えるならば、=5,000m の浮体に対しての長さの比は、λ/=1/50〜1/100 となる。このような短波長域での計算を従来の計算法で行うことは殆ど不可能である。
  2. 浮体の平面寸法に比べて喫水が非常に浅いので剛性が小さい。従って波浪中での浮体の挙動は、剛体としてよりも弾性体としての挙動が卓越する。すなわち、流体力学と弾性振動の連成を考慮しなければならない。
 本研究では、より少ない未知数で精度良い解を得るために、浮体底面の圧力分布を双方向3次Bスプライン関数で表している。この時、圧力分布に関する積分方程式はスプライン関数の係数に関する連立方程式に変換されるが、その際に、同じ3次のBスプライン関数を重み関数とするガラーキン法を適用している。これによって計算精度を格段に向上させることができる。また浮体を同じ大きさのパネルで分割することによって、積分方程式の核関数に現れる積分点と境界条件を満足させる点との相対距離の関数に対しては「計算の相似性」を使うことができ、計算量を大幅に減らすことができている。

 浮体の弾性応答の計算には、いわゆるモード展開法を用いている。すなわち、弾性変位をいくつかの規格化されたモード関数の重ね合わせで表し、各モード関数の振幅は平板の弾性振動方程式を周辺自由の境界条件式を満たすように解くことによって決定している。

 右図は、浮体上の弾性変位(黄色部分)、浮体周りの波面変位(水色部分)の様子を計算した例で、L/B=4 の浮体へ L/λ=10、入射角 30度の規則波が入射する時のある時刻(t=0)における様子である。 また浮体の弾性変形が周辺の波浪分布に及ぼす影響を知るために、上の右図には同じ形状の浮体を剛体として拘束している時の計算結果を示している。
 両図の比較から、弾性変形をしている場合には、波上側への反射波が少なく、波の一部は浮体の下面を通り抜けて来ることがわかる。更に、浮体上の弾性変形における波長は、浮体の剛性によって水面波の波長より若干長くなっていることがわかる。

 また、飛行機の離着陸など過渡的な弾性応答の計算も、メモリー影響を考慮したた畳み込み積分を含む運動方程式を時々刻々解くことによって可能としている。下の図は、浮体式海上空港からボーイング747ジャンボジェット機が離陸するときの弾性応答に関するシミュレーション結果である。(ただし、浮体の変位が分かりやすいように、変位は 5,000倍に拡大しており、実際には微小量である。)

柏木によって書かれた 「流力弾性問題に関する最近の研究」という解説記事もあります。
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