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分科会 『群知能海中ロボットシステムの調査研究

分科会テーマ『群知能海中ロボットシステムの調査研究』について

分科会主査 大阪府立大学・有馬 正和

     テーマの概要

研究調査用の水中ロボットは,建造や運用に多大なコストを要することから,現状では,それぞれの水中ロボットが単独で使用されることが多いようである。しかしながら,近年の自律型海中ロボット(AUV)に関する研究の進展は目覚ましく,さまざまな分野で活躍をするようになってきた。

 現在,我々が直面している地球環境問題やエネルギー/海底資源問題,食糧問題などを考えるとき,地球表面の約7割を占める海洋が果たす役割は大きく,地球規模の広範囲に亘る海洋情報を効率的に 収集することが求められるようになってきた。そこで,複数の海中ロボットが情報を共有し,互いに  協力しあって作業を補完し,効率的なデータ収集等をすることが必要になってくるものと思われる。

 一方,人工知能分野では,複数の自律的に行動する「エージェント」から構成される「マルチエージェントシステム」に関する研究が進められている。個々のエージェントは自分の環境を知覚し,それぞれの目標・目的を達成するように行動を意思決定する。また,エージェントを統括的に管理するものは存在しない。システム全体の振る舞いは,エージェント同士の相互作用によって決定されることになる。その他,人工知能の研究分野で使われる専門用語の説明を次頁に纏めたので,参考にされたい。

既にさまざまな分野でマルチエージェントモデルの提案や複数機の水中グライダーによる海洋観測の研究が進められているが,AUVだけでなくROVや海底に固定されたプラットフォームなども含めて,それぞれの果たす役割が異なるものを有機的に結びつけて高度な知能を持たせることによって「群知能水中ロボットシステム」の構築も考えられる。この分科会では、群水中ロボットに関するこれまでの研究の調査や、群水中ロボットのニーズの調査、群知能水中ロボットシステムのハード面、ソフト面、利用面などの検討などを行う。

専 門 用 語 の 説 明

用 語

説   明

群知能










自己組織化



エージェント




創発



黒板モデル





群ロボットシステム






分散協調型自律機能




自律性




性能尺度

分権化し自己組織化されたシステムの集合的なふるまいに基づく人工知能技術で,単純なエージェントの個体群から構成され,それぞれの個体はローカルエリアで互いと,環境と対話をする。個々のエージェント動を命ずるような制御構造は存在しないが,エージェント間の相互作用が群全体の行動に創発をもたらす。また,数多くの比較的単純なロボットから構成されるロボットシステムの協調動作に関する研究を「群ロボット工学」といい,研究が進められているが,ロボット間のコミュニケーションには電波や赤外線通信によるワイヤレス伝送システムが用いられる。水中では,エージェント同士の通信が困難であるので,冨士らの研究では「黒板モデル」を用いて相互の情報を受け取るようにしている。

生物のように,他からの制御なしに自分自身で組織や構造をつくりだすことをいう。自発的秩序形成とも言う。

自ら判断し行動する主体で,そのふるまいを記述・予測・説明するのに,知識・信念・意図などの心的態度を帰属させる必要がある対象である。マルチエージェントシステムでは,複数の自律エージェントの相互作用を研究対象とする。

要素間の相互作用によってより上位レベルの機能,構造,ふるまいが出現する現象やその際に存在するミクロ・マクロループを意味する。

多数の知識源が黒板と呼ばれる共有メモリを介して協調するモデルをいう。冨士らの研究では,人工衛星を介して海洋環境データが格納されるサーバーが黒板の役割を果たし,サーバーがローカルエリアごとに多数存在することから「分散型黒板モデル」を構成することになる。

複数台のロボットが協働して作業を行うシステムのことをいう。各ロボットに自律性を持たせて分散的に制御する方法を「自律分散型」という。自律分散型群ロボットシステムには,比較的少数台のロボットから構成されるものと多数台のロボットから構成されるものがある。前者は,比較的高度な機能を持つロボットで構成され,後者は,比較的単純な機能を持つロボットで構成され,一般に機能的に均質であり,同等に作業を分担する。ここで達成される協調は,創発的協調と呼ばれる。



冨士らの研究では,「リーダー」が存在しない対等関係を前提とし,海象状況などの環境および分散型黒板モデルのサーバーとの対話によって自己のふるまいを決定する自律型水中グライダーを多数投入して分散協調作業をさせる。このために水中ロボットに要求される機能を「分散協調型自律機能」と呼ぶことにする。

環境の変化や事前には予測できなかったことに適応して性能尺度を上げるためには,エージェントは事前に与えられた知識とそれ自身の経験の両方に基づいて行動を決定する必要がある。自身の経験に基づいて行動を行う場合,そのエージェントは「自律的」であるという。



エージェントがどれくらい目標を達成できたかを評価する基準のことをいう。

参考文献
  冨士雄介,有馬正和:群知能水中ロボットの最適経路計画シミュレーション,日本船舶海洋工学会講演会論  文集,No.5Kpp.101-1042007).




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