水中ロボットの多腕協調制御の研究

研究目的

  本研究では、水中での複雑な作業における自律化を研究のターゲットに据え、複数の腕(マニピュレータ)を装備した水中ロボットにおいて、それらを協調的に作動させ、作業腕の手先の精確な位置および力制御を自律的に行う制御システムを構築することを目的としている。
  現在、水中ロボットが浮遊状態で、複数の腕の自由度を積極的に利用して、複数の腕を協調して、腕の手先の位置制御をする研究を行っている。特に、作業腕の動作によって生ずる反動をキャンセルするためのスタビライジング・アームを用いた多腕協調制御に焦点を絞っている。

胸ひれ運動装置を用いたアーム付き水中ロボットの姿勢の安定化実験

パドル型の安定腕の代わりに一対の2軸胸鰭運動装置を用いて、水平面において作業腕と水中ロボット本体の運動干渉の低減化を行なった実験結果を示す。Fig.1 に実験に用いた作業腕付き水中ロボット模型を示す。 模型の大きさは、長さ幅高さ = 0.9m0.6m0.5mであった。質量は25.95 Kg であった。マニピュレータは3つのDCモーターが搭載された3リンクから成り立っている。その大きさは、長さ幅高さ = 0.651m0.040m0.0.095m で、質量は 2.55 (kg) であった。一対の2軸胸鰭運動装置はマニピュレータの根元から0.34 m 後方に取り付けられた(図1)。
水中ロボット模型は水平面内の運動を計測する装置に剛に接続棒で結び水中に沈めた。接続棒は、2軸胸鰭運動装置と同じくマニピュレータの根元から0.34 m 後方に取り付けた。制御入力を水中ロボットのヨー角、制御出力を左右の2軸胸鰭運動装置のリード・ラグ角とフェザリング角の位相差として、ファジイ制御を用いた。リード・ラグ角とフェザリング角の振幅は一定とした。
図2は、マニピュレータが周期11.1秒の周期運動を行なった時の水中ロボットのヨー角の時間変化を示す。マニピュレータの運動と水中ロボットの運動の間に強い運動干渉が起きることがわかる。
 図3は、胸鰭運動装置の周期(1.0 s 〜2.0 s)とマニピュレータの周期(5.5 s 〜11 s)に対して、制御なしの場合と制御ありの場合のマニピュレータの5周期間のヨー角のrmsの比を示す。これから、マニピュレータの周期が遅いほど制御性能がよいこと、鰭の周期は制御性能にあまり影響を与えないが、マニピュレータの周期が速い場合は鰭の周期が速いほうが制御性能はよいことがわかる。

 

図1  Model of underwater robot with a manipulator

 

図2 Motion of an underwater robot model of induced by an oscillatory motion of a manipulator

 

図3 Ratio of yaw motion of model under control to that without control

・自動復原装置によるカヌーのエスキモーロールの制御の研究

研究目的

本研究は、転覆後の自動復原装置を取り付けた新しい船舶を探るべく、マリンスポーツとして定着しているカヤックの復原技術であるエスキモーロール(カヤックが転覆した際にパドルを使って復原させる方法)を取り入れることによって、スポーツ工学を応用した新しい復原装置の開発を目的としている。

これまで、エスキモーロールのうち、2次元的動きをするロングロールを用いて研究を行ってきた。まず、実際の人間によるロングロールにともなう運動を解析し、運動モデル(この研究室の研究項目である水中ロボットの多腕協調制御で用いた方法)によるシミュレーションとの比較を行った。その結果、シミュレーションがかなりよく実際の運動を表わすことがわかった。  

次に、人間の動きを3関節を持つマニピュレータ(腕)に置き換え、模型カヌーの自動復原装置(下図)を製作した。各関節の動きを制御することによって、自動復原に成功した。


 

 

参考文献

(1)加藤、レイン:水中ロボットの多腕協調制御
日本造船学会論文集第178号(1995)pp.675-684                  

(2)加藤直三、”アクアバイオメカニズム研究の海洋工学への応用”、
16回海洋工学シンポジウム(日本造船学会)、pp.131138,2001

(3)N. Kato ,"Pectoral Fin Controllers  in “Neurotechnology for Biomimetic Robots,”  
  edited by J. Ayers, J.J. Davis and A. Rudolph, The MIT Press, pp.325-347,2002

(4)加藤直三、”カヤックのエスキモーロール”、
  第10回バイオエンジニアリング講演会(日本機械学会)、
pp.658-659, 1998